映画「風の電話」を見て

映画鑑賞文

ハル

ハルは17歳の女子高校生である。2011年当時岩手県大槌町に住んでおり、東日本大震災で両親と弟を亡くし8歳で孤児となった。その後、広島県に住む叔母に引き取られ、9年間叔母と2人で暮らしてきた。

津波に襲われた町

ある日、高校から帰宅すると叔母が倒れており、意識不明で病院に搬送された。病院で意識不明のまま眠る叔母を見て、両親、弟に続いて叔母までも奪われるのか、と絶望感に打ちひしがれて道路を彷徨っていた。

通りかかったおじさん(三浦友和)がハルを車に乗せ、おじさんの自宅まで連れて来てご飯を食べさせてくれた。おじさんの近所の家は土砂崩れで殆ど倒壊しており、奇跡的におじさんの家が無傷であった。

ヒッチハイク

ハルは岩手県の家に行きたくなり、ヒッチハイクで北を目指した。夫婦の運転する車に乗せてもらって、車内で会話したり、食堂に寄って食事したりした。食事中に妊娠中の奥さんが気分が悪くなり、座敷に横になった。ハルは奥さんのお腹に手を当てて、お腹の胎児が動く感触を感じた。夫婦と別れ汽車で北へ向かった。

ヒッチハイクするハル

関東地方の駅で、夜ベンチに座ってパンを齧っていたところ、3人組の男たちに「遊ぼう」と無理やり車の中に引きずりこまれそうになったが、通りかかったおじさん(西島秀俊)に助けられ、おじさんの車に乗ることとなった。

埼玉県

おじさんは埼玉県で人探しをする目的があった。東日本大震災のときボランティアで被災地の復興を助けてくれた中東系の人にお礼を言いたくて探していた。

その人を探す過程で中東系の在日外国人と交流する機会があり、中東系の人達の食事を御馳走になったり、父親が1年近く入管に拘留されていて苦しい生活を送る家族の状態を目の当たりにしたりした。

福島県

福島県に入り、福島第一原発の事故で誰も住んでいないおじさんの家を見たり、おじさんの親戚宅で食事したり入浴したりした。親戚宅の周囲は避難して誰もおらず、親戚宅だけ人が住んでいた。親戚の人から、避難した人が避難先で「放射能が感染する」などと差別されたり、避難先で体調を崩して亡くなったりした人の話を聞いた。

親戚宅周囲は家が建っているものの、空き家だらけで人がおらず、道路には未だに瓦礫が散乱している状況であった。

瓦礫だらけの町

大槌町

岩手県大槌町に入り駅前の駐車場に車を駐車していたところ、ハルの小学校時代の友達の母親が通りかかった。その友達は震災で行方不明となっており、母親が「私の娘も生きていればこんなに大きくなっていたのね」とハルを抱きしめて泣き崩れた。

ハルは基礎のコンクリートだけになった自宅跡地に立ち、両親と弟の思い出に浸っていた。父と母とキャッチボールをしたり、弟と駆けっこをしたりした思い出が脳裏に蘇った。しばらく自宅跡地で呆然と佇んだ。

基礎コンクリートだけの家に佇むハルとおじさん

風の電話

駅前でおじさんと別れ、ハルは汽車を待っていた。駅で汽車を待っていた少年から、亡くなった人と話ができるという「風の電話」の話を聞いて少年と共に向かった。

風の電話は電話ボックスに電話機が1台あり、電話線はどこにも繋がっておらず天国に繋がっていて、亡くなった人と話ができるのだ。

少年が先に風の電話で会話し、ハルの番となった。受話器を取り、父、母、弟に対して思いの丈を思い切りぶつけた。大槌町の自宅で「ただいま」と言って帰ったのに誰も返事しなくて悔しかったこと、いずれ両親と弟に会えるがその時は自分はお婆さんになっていること、などを電話に向かって話した。

風の電話で心を吐露したことでハルは生きる気力を取り戻し、前を向いて歩いて行くのだった。

震災で家族を全て失い叔母までも意識不明となって、ハルは自分が世界で一番不幸な人間だ、と思っていた。岩手を目指す旅で、震災で避難したり家を失った人たちを見たりして、逆境に置かれた人たちの生活を目の当たりにした。旅の途中で人の親切に触れ、何人もの人に助けてもらって大槌町に辿り着けた。

風の電話で両親・弟と話ができ、前を向いて生きて行こうとする少女の再生物語である。

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