第1の事件
目撃者盛田清作の証言は、
「公園を通りかかったところ、男が女性を包丁で脅しながら性的暴行を加えようと襲いかかっていた。しかし女性に反撃され、その弾みで誤って自分の腹部に包丁を刺して死亡した。女性は走って逃げて行ってしまった。」
というものだった。
主人公は死亡した安槻大学生曽根崎洋(ひろし)の大学の先輩で、事件の直前まで一緒に飲食しており、その際曽根崎は包丁など所持していなかったし、公園は曽根崎のアパートとは反対の方角であり腑に落ちないことばかりだった。また、女性が現場からいなくなり身元不明であることも解せなかった。
第2の事件
第1の事件から5日後。
高校生鯉登(こいと)あかりが自宅で殺害され、彼女のすぐ脇に巡回中の明瀬(みょうせ)巡査の死体があった。両名とも頭を鈍器で殴られ、絞殺されていた。死亡推定時刻は、鯉登あかりが殺害されてから4時間後に明瀬巡査が殺害されていることが判明した。鯉登あかりは妊娠3か月であった。
鯉登あかりは「身代わり」という自伝的小説を書いており、友人の図書館司書芳谷朔美(はがやさくみ)と鯉登あかり、そして芳谷朔美の婚約者との三角関係を書いていた。芳谷朔美は、鯉登あかりのお腹の子は芳谷朔美の婚約者との間にできた子どもではないかと思い、小説の内容に対して不満を持ち鯉登あかりとのトラブルがあった。
盛田清作の証言
主人公は、曽根崎洋が包丁を持っていたということが納得いかず、再度目撃者盛田清作に話を聴いたところ、
私は毎日仕事帰りの午前零時頃、公園でタバコを一服してから自宅に帰っている。男に襲われていた女性は、いつも私がタバコを吸っている時、公園で毎日ジョギングしている女性のようだった。私の妻は、私がタバコを家の中で吸わないよう要請していたが、先日私が家の中でタバコを吸ったところ私を怒鳴ったので一発妻を殴ってしまい、それ以来2か月間口をきいていない。
と証言した。
主人公は、包丁を持っていたのは曽根崎洋でなく女性だったのではないかと思った。そして女性は盛田清作を狙っていて、誤って曽根崎洋を襲ったのではないか、と推理した。
盛田清作の妻には公園の事件当日、友人の家に一泊で遊びに行っていてアリバイがあった。
芳谷朔美のアリバイ
警察は鯉登あかりの殺害と明瀬巡査の殺害の関係に苦慮していた。なぜ4時間の間隔をあけて殺害したのか。鯉登あかりがターゲットなのか、明瀬巡査がターゲットなのか判明しなかった。明瀬巡査がターゲットだとすれば、鯉登あかりの家に巡回に来る予定はランダムであり誰にも予想できるものでなく、鯉登あかりがターゲットとするのが順当だと思われた。
警察は、小説「身代わり」を巡ってトラブルとなっていた芳谷朔美の身辺捜査をしていたが、鯉登あかり殺害の当日は芳谷朔美と芳谷朔美の婚約者は外国に婚前旅行をしており、完璧なアリバイがあった。
第3の事件
捜査が暗礁に乗り上げていたところ、神社の境内で芳谷朔美の他殺死体が発見され、頭部を鈍器のようなもので殴打されて殺害されていた。死体のそばのブナの木には丑の刻参りのような釘に止められたハンカチがかかっていた。
主人公の推理
主人公は、曽根崎洋が盛田清作と間違えられて女性に包丁で襲われた、との確信を持ち、公園からいなくなった女性が誰か思案していた。盛田清作の妻には完全なアリバイがあり、ほかの女性である。
鯉登あかりの殺害は、小説で自身のプライバシーを暴露され、また婚約者の子どもを身籠っている可能性がある鯉登あかりを恨む芳谷朔美を疑っていたが、芳谷朔美には外国旅行していた鉄壁のアリバイがあった。
ここで主人公は、盛田清作の妻と芳谷朔美のアリバイを覆すヒントが閃いた。
身代わり 西澤保彦著 幻冬舎
単行本 1,400円(税抜き)